菜々子は、夫・慎一郎の実家の玄関をくぐった。見慣れた家族の顔が見えたが、一人だけまだ会ったことのない人がいた。慎一郎の独身の義弟、恭次郎だ。夫はすぐに別れを告げ、奈々子は家の片づけを手伝うことになった。座ってくつろげるようになるまで、ほんの数分しかかからないとわかっていたからだ。
彼女が雑巾がけをすると、恭次郎の視線が彼女の一挙手一投足を追った。菜々子は彼の視線を感じ、不安になった。夫から、恭次郎がいつも彼女に夢中になっているとは聞いていたが、ここまで大胆になるとは思ってもみなかった。彼女はそれを無視して仕事を続けようとしたが、恭次郎の誘いはますます露骨になっていった。
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